東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)349号 判決 1966年4月12日
原告 角田亥佐男
被告 山不二商事こと 鈴木肇
主文
被告は原告に対し金四、〇四七、五〇〇円およびこれに対する昭和四一年二月二五日以降右完済までの年六分の割合による金員を支払わなければならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は、仮に執行することができる。
事実
一、双方の申立
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決および仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求めた。
二、原告の請求原因
原告は、被告が振り出した別紙手形目録(1)乃至(16)に表示の各記載ある約束手形七六通の所持人である。
なお、原告は右目録(1)、(2)記載の各手形の振出日を昭和三九年一一月一日と補充した。
よって原告は被告に対し、右各手形の手形金合計四、〇四七、五〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の後である昭和四一年二月二五日以降右完済まで法定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三、被告の答弁
(一) 請求原因事実をすべて認める(ただし、原告主張(9)手形の満期日を除く。)
(二) 原告主張の各約束手形には、支払地として「東京都」とのみ記載されてあるが、右記載は、最小独立行政区画を示すに足りないから、適法な記載ではない。よって右各手形はいずれも無効である。
(三) 原告主張の各約束手形には受取人として不二興産と記載してあるが、それらの第一裏書欄には裏書人として不二興産株式会社の記名があるところからすれば、その両者は同一でなく、原告の同各手形所持に至る過程に裏書の連続が欠けているので、原告は同各手形の正当な所持人ではなく、権利行使の要件を欠くものである。
(四) 原告主張の各約束手形のうち、別紙手形目録(1)、(2)記載の各手形については振出日の記載から欠けており、未だ原告は各振出日を補充記載しないままであるから、同手形が呈示されても、呈示の効力がなく、また本件においても権利行使の要件を欠き、被告には遅滞の責任もない。
四、被告の抗弁
(一) 原告主張の各約束手形には第一裏書人として「不二興産株式会社取締役社長杉本建」と署名されているが、右訴外杉本は右裏書の日より先の日である昭和三八年一〇月一〇日以前に、右訴外会社の取締役たる地位を失っているので、右裏書は権限のない者のなしたものであり、裏書の効力がなく、たとえ裏書が形式的に連続していても実質的な裏書譲渡を欠き、原告は正当な同各手形の所持人ではない。
(二) 原告主張(9)の約束手形における満期日の記載は本来昭和三九年一二月中の或る日であったが、変造されたものである。
(三) 被告は訴外不二興産株式会社に対し曽て債努を負担していたが、弁済により何ら債務を負担していなかったが、訴外杉本から同訴外人の税務対策上必要な単なる見せ手形とし作成交付方を依頼され、債務負担の意思なく、本件各手形を振り出したものであり、原告は右事実を知り、手形取得により被告を害するに至ることを知って、右各手形を取得したものであるから、被告は原告に対し手形金支払義務がない。
五、証拠関係<省略>
理由
一、原告主張の請求原因事実は原告主張(9)手形の満期日を除いていずれも当事者間に争いがなく、同満期日の記載が変造にかかることの証明がないので、同満期日は原告主張のとおりとするほかはない。
二、支払地として「東市都」、支払場所として「東京相互銀行荏原支店」と記載されている各手形については、右支払場所が東京都品川区にあることは公知の事実であるから、右支払地は右東京都品川区を表わすものとして有効である。
三、原被主張の各約束手形のうち、(1)、(2)・各手形については、すでに原告主張のとおり振出日の補充がなされているから、原告の権利行使の要件に欠けるところはない。
四、本件各約束手形の受取人欄及び第一裏書人欄の各記載が被告主張のとおり完全に一致していないが、両者の記載は一方がただ株式会社という表示を欠いているのみで、その同一性が認められるので、裏書の連続にも欠けるところはない。
五、成立に争いのない乙第一号証によれば、訴外杉本健の訴外不二興産株式会社代表取締役としての任期が満了していることは認められるが、その後任者の選任がなされたことの証明がないので、被告主張のように右訴外人が無権限であったことはいえず、その裏書の効力を否定し得ない。<以下省略>